Strategy

後発ブランドがトップシェアを奪うには

既に市場のトップを走るブランドが存在する中
後発ブランドを投入しトップの牙城を切り崩す
ということを望まれることは
広告会社にとって珍しいことではない。

生活者が後発ブランドに乗り換える、
またはカテゴリーの新規層を連れてくることによって
市場ごと大きく拡大してシェアを奪う方向性もある。

先発商品よりも優れていない、または先発商品とほぼ同等の機能であるのに
コミュニケーションだけでトップシェアを取りたいと
相談を受けることは広告会社にとってとても悩ましい課題となる。

結論から言うと
生活が豊かになった現在
商品力はそのままでコミュニケーションだけでうまく
トップを塗り替えるということはかなり困難な相談となる。

後発ブランドがトップシェアを奪う良事例として
サントリーのノンアルコールビール「オールフリー」がある。

2009年キリンがノンアルコールビール「キリンフリー」を発売し
カテゴリートップを独走していた。

その1年後、2010年に後発で発売されたのがサントリーの「オールフリー」。

何故「キリンフリー」を押さえ、「オールフリー」が市場トップを勝ち得たかというと
・商品の強化
・ターゲットの変更(ポジショニングの変更)
・トライアル層獲得のためのプロモーション
この3つを同時に進めたことが主な勝因となる。

商品の強化について、
先発商品が既に存在する中、
後発商品に乗り換えてもらうには
今出ている商品よりももっと良い商品を出す
ということが前提となる。

「オールフリー」の場合、
アルコール分、カロリー、糖質の3要素を全てゼロにして
既存の商品以上の価値をつけた。
また、その価値を世界初という名称を強く押し出し
「キリンフリー」よりも優れた商品であることを強調した。

次に、後発ブランドが先発ブランドに勝つ重要な要素に
ターゲットの変更(ポジショニングの変更)がある。

「キリンフリー」が狙った層は
ビールを飲みたいが飲めないというビールの代替を望む層であった。

運転中など、ビールが飲みたいが飲めない機会に
ノンアルコールを飲んでもらうというポジションを「キリンフリー」は狙った。

それに対し、「オールフリー」は
アルコールは取りたくないが、
ちょっとしたご褒美感や開放感を得たいという需要を持つ層を狙った。

いつでも、どこでも、何も気にせずに飲みたい。
ビールの代わりで飲むものではなく
頑張った自分を労うために飲む商品、というポジションを取った。

ビールの有するご褒美感や解放感といった感情的なベネフィットは
決してビールが飲みたい人だけが持つものではなく
アルコールが飲めない、飲みたくない層も欲していた、ということになる。

ビールの代替商品ではない、というポジションが明確化したことで
商品のパッケージも白を基調としてビールっぽくない清涼飲料水のようなデザインになった。

主婦がビールのパッケージをした商品を
昼間に飲むということはやはり抵抗があり
例えアルコールが入っていなくても後ろめたさを感じることを考えると
清涼飲料水のようなパッケージデザインを作ったことは
購入の後押しにもつながっただろう。

そして、最後のトライアル層獲得のためのプロモーションについては
「オールフリー」はサンプリングを主体としたプロモーションを実施していき
気になるけど購入まではいかないようなトライアル層に飲んでもらい
商品の良さを実感してもらうことを狙った。

発売当初は100万人への配布を目標に(現在は300万人を目標としているようだが)
様々な場所でサンプリングを行い、試飲してもらうことを地道に続けた。

男性よりも女性の方が
サンプリングや試飲が効果的に機能するとの過去の経験があるため
主婦が日常の家事の後に一息つくことを想定して
女性をメインにサンプリングを展開した。

サンプルの渡し方も、自分の知り合いから普段の接触の中で試飲を勧められる方が有効に機能するため
知り合い伝いで配布されるプロモーションも展開したようだ。

これらのように
プロモーションだけでなんとかするのではなく

・商品の強化
・ターゲットの変更(ポジショニングの変更)
・トライアル層獲得のためのプロモーション

といったポイントもきちんと押さえていかないと後発ブランドが
トップブランドになるには難しい。

最初の課題に戻ると
先発商品よりも優れていない商品で
プロモーションだけでなんとかしてほしい
という相談を受けた場合

こうした後発ブランドの成功事例をStudyする機会をクライアントと設け、
これから投入する商品のどの機能であればまだ伸ばすことができるか
きちんと議論していく必要がある。

プロモーションに大きな予算を投下するという
パワープレーである程度シェアを取ることができることは事実ではあるが
リピートを伴う商品では、やはり商品力がないと
そのまま競合商品に戻ってしまったり
試してみたがカテゴリ自体購入することをやめるという
離脱に繋がりかねない。

商品が大事、それを活かすためのターゲット(ポジション)選定、
そこを固めた上でのプロモーションを構築することを前提に

クライアントに今の戦い方を理解してもらい、
一緒に進めていくことがマーケターには望まれるのではないか。

 

 

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Profile

 

千田 智治
Tomoharu Senda

 

広告会社 勤務
ストプラ・デジタル

 

三児のパパ

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