今日の日経新聞で、スモールマス商品が伸びているという記事が書かれており、ヤッホーブルーイングを例にクラフトビール市場の伸びについて言及されている。
まず、スモールマスとは、クラフトビールのように一定の消費量のある商品が集まれば、単一商品を大量に売るマス市場と同じとみなすという考え方だ。
クラフトビールは、国内ビール系飲料の販売額ではまだ1-2%であるが、米国では20%を超えているのを考えると、同水準の市場ポテンシャルを保有していると思われ、ビール離れの激しい若年層もクラフトビールなら飲むという人もおり、今後の市場拡大が期待される。
このスモールマスのトレンドはコスメやシャンプー、柔軟剤にフード、キャンプ用品まで広いカテゴリで進んできており、マスプロダクトを得意とする大企業は、新興系企業に虫食いのようにシェアを奪われている実情がある。
自分自身もビールは苦くてあまり好きではなかったが、よなよなエールをきっかけに、クラフトビールからビールの多様性や面白さに惹かれ、他の企業のビールにも手を伸ばすきっかけになっている。
アサヒやキリン、サッポロなど巨人ひしめくある種出来上がったビール市場に参入し、着実にファンを獲得していくマーケティング戦略のうまさがある。
よなよなエールのマーケティング戦略は、「ブランドの差別化」「クチコミの活用」「熱狂的なファンづくり」の3つで成り立っている。
「ブランドの差別化」
リーダー企業の場合、差別化は不要、王道の商品は訴求ポイントを徹底的に追求することが大切だが、ニッチ企業の場合、大手とは明らかに異なっている部分を追及することが大切。
ブランド・エクイティ研究の第一人者ケビン・ケラーがブランドの連想は「強く、好ましく、ユニーク」と説いたが、ニッチ企業にとって、ユニークさは差別化に繋がり、生命線でもある。
「アンチマス派」「個性的な人が持っているような人」をターゲットに設定しつつ、自身のブランドパーソナリティを「知的な変わり者」と置くことで、特定のこだわりを持つ層とブランドとの繋がりを持たせている。
香り高く、ビールらしからぬ真っ黒のパッケージだったり、13℃が適温、ゆるいネーミングで他のビールとは全くもって異なる存在感を持っているが、味は本格エールビールという商品性で、大手ビール会社とはしっかり差別化。
100人いる中で1人が熱狂的に好きであればいいというポジショニングを最初に決断したトップ層が素晴らしい。
最初、普通のビールをイメージして飲むと確かに違和感を持った記憶がある。
ビールがこんなに香りが高いのか、なんてフルーティなんだと最初ワインを飲んだときに近い印象を持ったのも事実だ。
ヤッホーブルーイングが調査をしたところ、「大手ビールは一瞬で飲むが、よなよなエールはじっくり飲む」「大手ビールは飲んだら捨てるが、よなよなエールは缶を眺めてから捨てる」という声も上がっているほど、消費のされ方も異なる。
また、調査では何故飲むのかという問いに対しては、「自分満足、自分を楽しませたいから」「アンチメジャーなモノや少し変わったもの、人が飲んでいないものが好きだから」という美味しい以外の意見も出てきているようだ。
情緒価値としては、こんなにおいしいビールを自分は知っているという自己確信という面白い価値を愛用者は感じている。
「クチコミの活用」
人に話したい、伝えたいという動機は5種類あるようで、「驚いた」「興味・関心が高い」「ドヤ顔をしたい」「ファンだから」「人の役に立ちたい」というのがクチコミを起こすモチベーションとのことだ。
よなよなエールは商品そのものが、前者4項目にひっかかっている。
また、クチコミの捉え方もロジカルに考えており、「知っている人が知らない人に伝えるクチコミ」と「知っている人同士が盛り上がるクチコミ」の2種類あると考えている。
とくによなよなエールは、後者のクチコミ醸成を積極的にチャレンジしており、リアルのイベントを実施しつつ、デジタルでのクチコミの話題を増やしている。
けやきひろばビール祭り、YONA YONA BEER WORKSの店舗など先行発売と言う形で人に言いたくなる仕掛けと共にネタを投下し続けた。
SNSの投稿を通じて、生活者からのコミュニケーションを活発化させることで、TwitterでのTweet総量が同時期に発売された「一番搾りとれたてホップ」の2倍ほどだったようだ。
マクドナルドやコカ・コーラがSNSを積極的に利用しているように、生活者がSNSに投稿させることをKPIとして、CtoCのクチコミ喚起を促すことが売上にも繋がるということだろう。
「熱狂的なファンづくり」
よなよなエールと言えば、超宴。
北軽井沢のキャンプ場でビールを飲んで踊ったり、ご飯を食べたり、寝たり、ヨガをする知る人ぞ知る一大イベントだ。
超宴に参加した人から話を聞いたことがあるが、この超宴は、よなよなエールのファンがブランドを更に好きになるイベントでもあり、ファンが友人=新しい顧客を呼ぶというサイクルが自発的にできているイベントだ。
参加した人、ヤッホーブルーイングの社員が共に一緒になって楽しみ、語り、ブランド愛を深める最高の場となっている。
予約枠がすぐになくなるほど今では人気だとも聞いた。
なんだかバイクのハーレーに似ているなと。
ファンがファンを呼び、ブランドとの長い付き合いをファン自身が求めているように。
ブランドのことを好きな人と、それを他の人に伝えることは全く別軸だが、よなよなエールは、ブランドのことを人に伝える仕組みも意識しながらイベントなど施策を設計。
過去担当したブランドで「2%シェア」というものがあった。
2%以下のシェアであれば低予算で知恵を絞れば達成できる領域だが、欲が出てそれ以上のシェアを取りに行こうとすると、マーケティング費も人件費もかかり、逆に費用対効果が悪くなるというものだ。
ある意味、2%シェアを沢山作るというのも賢い選択肢なのかもしれない。
スケールさせることも事業としては勿論大事だが、マスプロダクトが選択されにくい中で、スモールマスを狙って、規模は小さくても濃い愛用者と、深く長いお付き合いをするというビジネスモデルを選択するのもこれからは必要なのかもしれないな。