3年前からじわじわきていた共働き世帯向けの商品やサービス。
今年大きなキャズムを超えてきた兆候があり、来年にはより本格的に広がっていきそうだ。
その兆候の一つに、日本PR協会の「PRアワードグランプリ2018」で、『「名もなき家事」撲滅へ 大和ハウス「家事シェアハウス」』がグランプリを受賞したのがあげられる。
共働き世帯が増えている中で、いまだに妻の方が家事の時間が多いという問題が根底にある。
そして、妻に偏りがちな家事の中でも、料理、洗濯、掃除といった名前のある家事以外の、細々とした家事を「名もなき家事」と定義し、それを解決するためのサービスを大和ハウスが開発していったという戦略PRだ。
「名もなき家事」という言葉は、共働き世帯から多くの共感を呼び、SNSやニュースでも取り上げられた。
もともと大和ハウスは、ライフハック機能を盛り込んだサービスを積極的に開発し住宅に取り入れてきたハウスメーカーであり、自分専用カタヅケロッカー、情報シェアボードなど、痒いところに手が届くサービスがPRと絡めて一気に注目を浴びた好例。
個人的には「名もなき料理」というのも、大事な家事かなと思う。
勝手につけてみたが。
きちんと献立をたてて、今日はこの料理!明日はこの料理!と作ることって、共働き世帯には時間的に難しく、時間優先で「冷蔵庫に入っている物で昨日と違う物」をその場で作っていく。
自分も妻に「この料理はなんて名前?」と聞くが、だいたいいつも「わからない、あり物で子どもも食べられる味付けで作った」と、名もなき料理が出てくる。
オイシックスやコープでは、ここ最近ミールキットが人気だ。
ミールキットは、野菜や肉などが既に人数分にカットされており、同梱されている調味料をフライパンの中で混ぜればできあがる手軽な料理キットのこと。
食材がカットされていたり、調味料が既に仕込んであったりと手間がかかっている分、少し金額はかかるが、時間が無い人や料理が苦手な人にとっては助かる。
何より、惣菜やお弁当とは違って、最後自分で調理して完成させるため、作り手としては効率的にひと手間や愛情を加えることができ、料理の達成感や、母である喜びの実感まで得られる。
母親の「出来合いのものは手を抜き過ぎている感じがして抵抗がある、だからといって本格的に作る時間はなく、手間は可能な限り省きたい」というインサイトをうまく突いている商品でもあるので、忙しい共働き世帯に人気で、各社がこぞってミールキットを出すようになった。
インスタ映えするミールキットなど種類も増えてきたが、今後デザートやお菓子、つまみなどもっとバリエーションが増えると個人的にはとても助かる。
また、料理繋がりでいうと、最近、朝食が提供される小学校も出てきている。
大阪市立西淡路小学校は2年前から毎週月・水・金の朝7時半から朝食を出しており、1食50円程で温かいうどんなどが食べられる。
早朝から60-80代の地域ボランティアが手伝い、市の補助を受けて運営している。
こちらは、共働き世帯の朝の負担を軽減するために、朝ごはんの準備や摂取の時間を小学校側で吸収しようとしている。
最近、幼稚園も共働き世帯の増加で色々と変わりつつある。
幼稚園は14時で終わるため、基本は専業主婦でないと通えないのだが、14時以降は民間の塾や教室と業務提携し、楽器や体操、絵画など、こどもの教育に繋がるアクティビティを学ぶことができる園が増えており、幼稚園に通う共働き世帯も増えている。
下手に自分で塾を探して通うよりも、いつも行く園の中でお友達と一緒に参加できるので、とてもいいシステムだと思う。
また、幼稚園がこども園に変わる例も増えている。
片働きが減って、共働きが増えているので、幼稚園と保育園の機能を併せ持つこども園に変わるのも時代の流れだ。
家庭の話に戻って、トイレタリー企業LIONの、忙しい現代主婦を応援するブランド「ルック+」も今年売上が好調だ。
少ない負担で確かなキレイが手に入る「がんばらなくてもキレイ」というコンセプトのもと、時間や気持ちのゆとりを生み出す浴室用カビ防止剤や排水溝クリーナー、浴室用洗剤がヒットし、前期の売上を大幅にこえるほどだった。
LIONは共働き向けの商品開発に積極的で、今年発売した部屋干しに特化している衣類用洗剤「トップ ハレタ!」も話題だ。
「トップ ハレタ!」は、夜に部屋干しする共働き世帯に向けて、部屋干しなのに、繊維をしっかり立ち上げてふっくらとした触感になる洗剤。
ふっくらした洗濯物は畳む時の心理的ストレスを低減しているという情報もあったりする。
パパ、ママのどちらかの負担を減らすのではなく、二人で家事の負担を減らすという視点で活動しているのがPanasonicで、「パラレル家事」という言葉を使っている。
帰宅後、ママが料理を作っている間にパパが洗濯機を回したり、パパが食洗機を回している間にママは子どもとお風呂に入ったりと二人パラレルで家事をすることで、家族の大切な時間が増えると訴求。
行政から民間までさまざまな企業が共働き世帯にフォーカスしだしたのも、生活者の買い控えが進む中で、シニア市場と並んで共働き世帯市場は伸び続けているというのもあるし、ちょうど世の中「働き方改革」の流れもあり、世の男性たちの帰宅時間が早まった。
それに伴い、家事に関与する人(男性)が純粋に増えているため、市場としても勢いがあるのだろう。
共働き世帯を考える上でのキーワードは3つ。
世帯単位で時間価値の高騰
共働き世帯は、子育てでただでさえ自分の時間が無いのに、SNSの普及で隙間時間もギュウギュウに取られており、お金で解決できる物は積極的に払って乗り越えたいという気持ちがとても強い。
時間価値が年々高騰し、インレーションを起こしているのだ。
この隙間時間の取り合いは、あらゆるものがデジタル化、IoT化する中で、もっと加速するはず。
エモーショナル・ストレス・フリー
物理的なストレスよりも、情緒的なストレスの軽減の方にまだまだニーズがありそうだし拡大しそう。
情緒的なストレスの例として、食洗機がわかりやすい。
食器を完全に手で洗うのと、予洗いして食洗機で洗うのは、正直、時間にして数分しか変わらないが、「ちょっとだけ楽したい」という気持ちを満たしてくれるので、自分も毎日使っているし、これ無しでは生活は成り立たないと思うほど。
前述の時間価値の高騰もあり、塵ほどの小さなストレスすらも取り除きたいという気持ちが強く働いている。
パパ開眼・家事ハック
共働き夫婦に調査を行っても、女性の方が数時間多く家事を行っており、それを打開すべく、男性の重い腰を上げるツールやセミナー、グッズがもっと増えてきそうだ。
これまでは意識高い系のパパに向けたサービスは多かったが、大半の意識低い系のパパも、そんなこと言ってられないくらい本当に忙しくなってきて、いよいよ「おれも家事しなくては」という状況に追い込まれてきている(おせーよ!というママの声を背中に)。
男性が興味を持ちやすいガジェットと掃除が組み合わさった製品の登場や、ビジネスツールを家事に持ち込んで、例えばTrelloで家事をタスク化するとか、ChatWorkで家族の動画や写真、伝達事項をとりあえず投げ込んで情報共有から始めることも増えるのではないか。
人気の家事シェアノートも「おまかせ・後よろパパ」に向けた、ママによる「お前も家事せんかい」と伝えるための家事可視化もニーズとしてはあるので。
共働きの増加によって、企業側は共働き向けのモノやサービスの投下がより加速し、生活者は、もういい加減時間の無さは限界であるということで、両社ニーズマッチングの上で、より消費が活発になりそうだ。