広告会社に入社して、若手プランナーが早々につまずくのが、企画書の書き方ではないか。
大学のゼミや研究室でパワーポイントをバリバリ使ってたぜ、という学生も、入社後実際に企画書を書こうとするとうまく書けなくて苦労する。
先輩の企画書を読んで「ナニコレわかりにくいなw」「デザインがなんか汚いなw」とか思っても、自分の企画書の方がもっとわかりにくくて、体裁だけいっちょまえに取り繕ったわけわからん資料だったりする。
数年後、自分の企画書を振り返って見ると「よくこの資料で俺提案してたなw」と、猛烈に死にたくなることがある。
若手プランナーは、先輩トレーナーと一緒にクライアントの提案に同席しつつ、企画書の書き方を少しずつマスターしていく。
「あ~こうやってロジックって作られていくんだ」「なるほどこういう構成だと、確かに否定のできないうまい話の展開だ」と言った形で、先輩の書き方を横目で学ぶ毎日。
早く企画書の書き方をマスターするには、やっぱり「守・破・離」。
まずは、色々な先輩プランナーの企画書を貰いに行き、それを読み込む。
ウン億円の超大型競合プレゼンに勝利した企画書だったり、有名プランナーが制作した長編の企画書や、大ヒットした商品のキャンペーンプランの企画書など、同期ネットワークなど様々な手を使い収集する。
そして、それらの企画書を何度も何度も読み込みながら、どういう話の組み立てをすると伝わりやすいかを学び、そのまんま真似て作ってみる。
フォントも、言い回しも、画像の見せ方も全部真似る。
そして、少しだけ自分のオリジナリティをそこに入れて、型を少しだけ壊してみる。
自分流のたとえ話や、口調、色使いなど、少しだけでいい。
また、次の案件が始まった時に、今度は違う先輩の企画書をベースに、また完コピして、少しだけ崩して自分オリジナルを少し入れてみる、ということを何度も繰り返し、自分の引き出しを増やしていく。
企画書Aの課題の見せ方と、企画書Bのジャーニーの描き方と、企画書Cのアイデアの見せ方など組み合わせて一つの企画書を作ってみたり、良いと思った資料は片っ端から真似まくる。
これを続けていると、企画書作りの複数の引き出しができつつ、自分的に伝えやすい形がなんとなく見えてきて、"自分だけの型”ができてくる。
ここで、やっと自分にしか書けない企画書ができあがる。
企画書は人の意思であり、説得の仕方も人それぞれのため、これが王道の書き方みたいなものはおそらく作れないだろうが、キャンペーンプランニングにはキャンペーンプランニングの、事業プランニングには事業プランニングの、それぞれのカテゴリの企画書で伝えないといけない”共通の要素”はあって、多くの先輩プランナーの企画書を読み込むことで、それが見えてくる。
「戦略を立てられるようになるには2年はかかるよ」と先輩が言っていたが、後々「確かにそれくらい必要だったわ」と理解できたりもする。
なかなか簡単には企画書の書き方はマスターできなかったのもあり、たまに広告関連の雑誌で「あの企画書を公開」みたいな特集があるととても興味がわく。
ブレーン2月号の「特集 トップクリエイターのすごい企画書&プレゼン」で、原野守弘さんの記事が興味深かった。
とにかくプレゼンは「長い」のが一番よくない。
僕が作るスライドでは、2、3ページ目にはコアアイデアが出てきます。
全体の構造はごくシンプルです。
まず、頭に来るのは、「課題」のスライド。
オリエンのポイントを自分なりにこう考えましたとまとめたものです。
3~5行くらいの箇条書きで完結にまとめます。
次が洞察のスライド。
オリエンの内容に対して自分が感じたことや、今世の中がこうなっているから企画はこうするのが良いと思うなど、企画の立脚点になるインサイトや世の中の見立てを書きます。
その次が「コアアイデア」。
コアアイデアを文章化したマニュフェストという形で、A4一枚くらいでまとめて持っていき、その場で朗読することが多いです。
その朗読がそのままCMになる、あるいは新聞広告の原稿になる、という体裁で持っていくので、聞き終わると、なるほどそういうメッセージかとわかってもらえます。
その後に、画を作っていれば「キービジュアル」も見てもらいますし、参考にレファレンスの写真やムービーをつける場合もあります。
最後が「エグゼキューション」で、そのアイデアがCMのコンテになるとこうなります、OOHになるとこう、店頭ならこうですとイメージを見せていきます。
欧米ではこれくらいシンプルでないとプレゼンとは言えないようだ。
また、プランニングしていく上で、「世の中」をどう見るのかもとても大事。
企画書に慣れていないと、およそクライアントの”商品周りの話”に留まってしまいがち。
例えば、他社にはない機能Xを持った商品を出すときに、競合と差別化できるこの機能Xをしっかり伝えましょう、みたいな機能だけの提案になってしまう。
世の中からみてみると、そんな機能の差異は競合含めてどれも一緒に見えるかもしれないし、社会課題や、物の価値観の変化、今の家族の在り方など、様々な世の中の視点でその商品を改めて捉えると、機能ではない違う切り口が見えてきたりする。
実はそこが、生活者の心が動くスイッチだったりする。
例えばミネラルウォーターであれば、ミネラルウォーターについてのインサイトだけでなく、世の中全体の「渇き」についてとか、環境問題について、あるいは災害復興と結びつけて考えることもできる。
こういうテーマを世の中の人がどう見るかの視点があって、そこに商品があると、人はどう感じるか。
そういうことをベースに組み立てていく。
POLAリクルートフォーラムの広告(『この国は、女性にとって発展途上国だ』『この国には、幻の女性が住んでいる』)は、まさにそうして生まれた仕事です。
採用イベントの広告ですが、採用の外側にある、女の人の生き方、生きにくさみたいなところから考える。
その視点でPOLAの採用をとらえると、違って見えるわけです。
なぜそれが必要かというと、広告を見ている人がそもそもそういう視点で見ているからです。
広告を見る人は、その広告だけ見ているわけではなく、同時代のさまざまな事象を目にする中で、たまたまその広告に出会います。
それと同じ距離で企画するということです。
いい広告には必ず、世の中の見立ての素晴らしさ、新しさがあると思います。
また、Honda. Great Journey.の事例では、人類の歴史は”移動”の歴史であるという人類共通のインサイトに注目し、人の飽くなき移動への欲求を、キャンペーンの立脚点としている。
モビリティが、人類を自由にする。
そうしてうまれたキーコピーが「Honda. Great Journey.」
Hondaの作るコンセプトカー、テーマは自動運転技術やその他最新テクノロジーが実現する”The New Great Journey”(新しい大旅行)。
科学的な検証に基づくプロジェクトで、デトロイトMSにて模型+開発ドキュメンタリーを公開し、MSオープニングムービーとWebサイトなどで伝えていった。
自動車を売るという課題から、世の中の見立てとして、”移動とは人類の本能”と読み解き、Hondaの技術力で最も新しく、最も快適なモビリティのプロトタイプを作るというアイデアに昇華している。
どう世の中ごと化するかは、普段から世の中のトレンドの変化や、社会的な動き、それを基にした考察をしていないとなかなかできるものではない。
ここは継続的なインプットとそれを鍛えるトレーニングが必要だ。