普段のコミュニケーション・プランニングで、○○検討層をターゲットにして、商品理解を促し購入させるという、ファネルを使って考える中で、ここ最近ネットで話題のAmazonサイバーマンデー祭りやPayPay祭りを通じて自分の購買行動が全くもってファネル型になっていないなと改めて気づく。
「セール」という刺激剤があるにせよ、生活者にとっては、大きくお金を使っていることには変わりがない。
Amazonのサイバーマンデーについては、先に買いたいものが頭の中にあるというよりも、商品を見て初めて欲しい物が認識される。
「あ~、この商品確かに欲しかった、いつか買おうと思っていたんだけどな~」と。
商品を見てから購入意向を自ら認識し、いくつか目ぼしいものをピックアップした後に、レビューを確認しふるいにかける。
セール期間はクチコミ自体が急増しているし、安かった勢いでポジティブなレビューを書く人も多いので、星が1つの低評価レビューを見て、許容できるかを確認する。
例えば、Bluetooth対応のイヤホンを買うとき。
『買ってすぐに壊れて使えませんでした』(…うーん、たまたま不良品もあったのかな)
『設定が大変で、片方が起動しなかったり、終了できませんでした』(…機械が苦手な人は使いづらいのかな)
『重いしデカいし、歩いているとボロっと落ちる』(…これはさすがにヤバいかも)
『他の人も書いてますが、一ヶ月くらいで使えなくなります。サポートに問い合わせても全然返信がないし、安物買いの銭失いとはこのことです』(…リ、リスクが高いので、他のを検討しよう、、)
と斜め読みしたレビューの中でひっかかりが無いかを確認して、問題なければ、ポチッと購入する。
いつか買おうかなくらいで考えていたのもあり、普通にアンケートで聞いたら、購入意向は低いと答えていたと思うし、そもそも商品をネットで探してもいないので、デジタル上で購入意向者のフラグを立てることは不可能なはず。
それでも、商品を目にすると「自分はこれが欲しかったんだ!」と気付き、ものの数分~数十分で購入してしまう。
また、セール終盤に入ると、色々なまとめサイトやメディアから、「目玉商品ベスト7選」「読者が購入した特選タイムセールまとめ記事」というような記事が複数掲載され、再度買い物意向(お金使いたい意向)が誘発され、ポチポチタイムに突入する。
こうやってみてみると、普段はファネルの順を追った真面目な設計をしているけど、案外人は欲しい物は提示されないと認識しないし、セレンディピティでの買い物の方が楽しいのだと気付く。
行動を動かしたものに、「選択肢が複数ある」ということが大事だ。
経済行動学でいうアンカリング効果が働き、大きな値引き額が複数の商品で提示されていると、「買うか買わないかという軸」ではなく、「安い中でどれを買うかという軸」に切り替わる。
商品が1個だけ安いと行動に移さないが、10種類など同じカテゴリ商品が一斉に低価格になっていると、生活者にとって選択肢が与えられ、軸が切り替わるスイッチが入る。
一社だけ抜きんでた価格戦略も大事かもしれないが、市場全体で群をなす方がより大きなターゲット群を動かすことができる。
同じくらいの時期に行われたPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」は、相当秀逸なコミュニケーションを実施。
SNSでは祭り状態で、毎日のように「PayPayの全額還元に当たった!」という情報がタイムラインにあがってくる。
それに続けと、PayPayをDLしたり、PayPayで買い物をしだす人が急増。
ここまで毎日祭り状態が続くと、この祭りに参加しない方が情弱ではないかと、使わないことに不安になってくる。
PayPayアプリをダウンロードすると500円が貰え、買い物の20%がキャッシュバックされ月に最大5万円が返ってくるし、ソフトバンクユーザーを中心に当選確率が高い全額キャッシュバック(最大10万円)も合わせて実施されている。
この祭りの裏にあるのは、行動経済学の損失回避の法則(プロスペクト理論)で、人は得をしたときよりも、損をしたときの方が心理的なインパクトは大きいというのがある。
大きく利益を貰えるか大きく損失をもたらす選択肢(ハイリスクハイリターンな)Aと、確実に低利益を貰える選択肢(ゼロリスク、ローリターンな)Bがあると、多くの生活者はBを選択する。
リスクを回避するのが人間の性なのだが、このPayPayのキャンペーンでは、その損すらも得になっているという設計がされているため、多くの人が後に続けと積極的にPayPayで買い物をしだす。
全額キャッシュバックキャンペーンの抽選には外れたけど、5万円分ものポイントがバックされたという損をしない設計があるため、とりあえず買っとけという意識が働く。
当たっても外れても貰えてうれしい気持ちがすべての人にもたらされ、「私も当った!」「はずれたけど○万円貰った!」というポジティブな投稿がSNSに蓄積され、その投稿を元にPayPayユーザーが増え、また投稿されるという雪だるま式の”祭り”が繰り広げられる。
この確変モードにくると、いつか買えたらと思っていた優先度がそこまで高くない商品も購入したくなる。
買った方がオトクなら、買いたいものを作るという逆の思考も働き出す。
「来年引っ越すからこの洗濯機買っておくか、どうせ後で買うんだし!」と。
100億円なくなったらキャンペーンが終わるという「限定感」に、これだけ身の回りであたりを目にすると自分もあてにいこう、もしかしたら当たるかもと芽生える「射幸心」、当たっても外れてもオトクであるという「反・損失回避」な設計が秀逸だ。
ちなみに、AmazonサイバーマンデーとPayPayのTwitter投稿量は、PayPayの方が3.5倍多い。
(データ元:Yahoo!リアルタイム検索)
また、Googleでは、PayPayの方が2.5倍多く検索されている。
(データ元:Googleトレンド)
どちらも祭りだったが、PayPayは目新しさとインパクトあるキャンペーンによって、Twitter投稿とGoogle検索の良好なサイクルが作れている。