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「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理 「インサイト」の見つけ方|大松孝弘 波田浩之

インサイトに関して書かれた書籍はいくつかあるが、この書籍はわかりやすく体系的にまとめられている。

 

「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方 (宣伝会議)
大松孝弘 波田浩之
宣伝会議
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アカウントプランニング(調査などで生活者のニーズを理解した広告の設計)を普段から実施しているプランナーにとって、インサイトを捉えることは永遠の課題でもあり、どれだけデジタル化が進み、新しいサービスやツールが次から次に出たとしても、普遍的に必要となってくる要素だ。

 

「わかりやすい問題に応えていればモノが売れた時代」はすでに終わりを告げています。今、ほとんどの商品やサービスは、「だいたい、良いんじゃないですか?時代」へと移行してきました。

今の時代の商品であれば、買って不満を感じるレベルのものはほとんどありません。

しかし、「だいたい、良いんじゃないですか?」とは異なる、「これは、私の『欲しい!』という気持ちを満たしてくれそう」と思えるものには、なかなか出会うことができなくなっている。

「だいたい、良いんじゃないですか?時代」の中では、小さい差を競い合うのではなく、「隠れた欲求」に応える「革新的変化=イノベーション」でまったく新しいものを作り出すことが必要、ということです。

最後は価格競争で消耗戦に陥り、披露するのがオチです。

それを考える時に、カギになるのが「インサイト」です。

革新的な商品を出せなくなっている中、生活者にとっては殆ど微差のような機能の違いを競い合っても差別化が難しく、モノ視点ではなく生活者視点で考えないといけない。

 

インサイト関連の書籍やネットの記事を見ると、マクドナルドの事例は度々みる。

 

お客様に「どんな商品が欲しいですか」とアンケート調査をすると必ず「低カロリー」とか「オーガニック」とか「ヘルシー」とか、健康重視のメニューが挙がります。

ところが、4枚のパティが入ったメガマックを販売しても、クォーターパウンダーを販売しても、若い女性が平気でメガマックやクォーターパウンダーを食べているわけです。

お客様のおっしゃることと、実際の行動はまったく違うということです。

 

スティーブジョブズも同じようなことを言っていた。お客様調査をしてもiPhoneという商品は絶対生まれてこなかった。人は想像できるものの範囲でしか語ることしかできないため、革新的な商品を作るにあたって調査なんて無駄であると。

重要なのは、生活者が普段意識していない心理、気が付いていない無意識の領域の心理である「隠れた心理=インサイト」こそが、顧客を動かすことができる。

 

書籍では、キーインサイト、バリュープロポジション、アイデアの3つを用いたフレームワークを利用して説明している。

 

キーインサイト:隠れた不安や欲求のエッセンス

バリュープロポジション:価値提案

アイデア:価値を体験させる具体策

 

AKB48の場合

キーインサイト:会えないアイドルに憧れを煽られていることに、うんざり

バリュープロポジション:会いに行けるアイドル

アイデア:秋葉原に常設劇場を作り毎日公演、劇場に行けばメンバーが必ずそこにいる、「握手会」で直接話せる

ひとつのキーインサイトとひとつのアイデアがついになるのではなく、キーインサイトとバリュープロポジションが対の関係になり、そこから様々なアイデアが考えられる。

 

ディズニーランドの場合

キーインサイト:遊園地は子どもばかりで大人が楽しめるところじゃない

バリュープロポジション:大人が夢中になれる場所

アイデア:大人も子どもも現実を忘れられるファンタジーの世界、パークは外の空間と遮断される、バックヤードは隠されて目に入ってこない

 

インサイトを構成する4つの要素も紹介されている。

エモーション(感情)は、ドライバー(源泉要求)、シーン(場面)、バックグラウンド(背景要因)から成り立っている。

エモーション(感情):気分や気持ち、情緒

ドライバー(源泉要因):感情を生み出す元となった、直接的な要因
・物性、素材、成分
・機能、性能
・実際に行った行動、行為
・そこで感じた感覚
・歴史、由来、エピソード、背景にある事実
・ネーミング、パッケージ、広告、キャッチフレーズ、キャラクターなどの情報

シーン(場面):感情が生まれた場面、行動や状態を伴う
・日時、季節
・場所、エリア
・環境、どのようなところか、そこに何があったか
・一緒にいる人
・その人にとってどのような時だったか
・何をしていたか
・どのような状態だったか
・その前に何をしたか、その後に何をしたか

バックグラウンド(背景要因):感情が価値(または、不満や未充足)である背景的な理由
・出来事、経験
・周囲の環境
・家族、友人、職場などの人間関係、交友
・仕事の状況、労働環境
・社会的に影響を及ぼす事実
・その人自身に関すること、年齢、性別、人種、外見的特徴、学歴

 

4つの要素で説明されるインサイトは、さらに3つに分類することができる。

価値のインサイト
不満のインサイト
未充足欲求のインサイト

 

価値のインサイトの場合(キットカットの事例)

ドライバー(源泉要因):キットカットをパキッと折る
シーン(場面):勉強と勉強の合間に一息いれるとき
バックグラウンド(背景要因):ストレスだらけの毎日 3大悩み(受験、恋愛、友人関係)
エモーション(感情):心がふっと軽くなり、ストレスから解放される

キーインサイト:休憩の時まで、受験のストレスをひきずってしまう
バリュープロポジション:パキッと折ると、心が解放される
アイデア:受験生応援キャンペーン

キットカットの「ストレスオフ」という価値を活かして、バックグラウンドの悩みを解消する

 

不満のインサイトの場合(お茶漬けのりの事例)

ドライバー(源泉要因):顆粒のカサッカサッという音
シーン(場面):ひとりでお茶漬けを食べるとき
バックグラウンド(背景要因):孤食化
エモーション(情緒):孤独でさみしい感じがしてくる

キーインサイト:お茶漬けのりをひとりで食べるとき、カサッカサッという音を聞くと孤独でさびしい感じがしてくる
バリュープロポジション:しっとりしたお茶漬けのり
アイデア:生タイプのお茶漬けのり

生タイプにすることで、負の感情のドライバー「顆粒のカサッカサッ」を解消する

 

未充足欲求のインサイトの場合(柔軟剤の事例)

ドライバー(源泉要因):おひさまの匂い
シーン(場面):洗濯物を取り込んでたたむとき
バックグラウンド(背景要因):家事や育児の面倒くささ
エモーション(情緒):気分を上げたい

キーインサイト:面倒な洗濯物にはちょっとした喜びが欲しい
バリュープロポジション:おひさまの匂いで気分が上がる
アイデア:おひさまの香りの柔軟剤

ドライバー「おひさまの匂い」を活かして、負のバックグラウンド(家事ストレス)を解消するエモーション(気分を上げる)を生み出す

 

また、「買わない理由」を探る方法も面白い。

多くの企業の効果測定をこれまでやってきたが、何故買わなかったかを知るために、定量調査を年間ウン千万円かけている企業もいたし、グループインタビューやデプスインタビューを鬼のように繰り返す企業もいた。

 

しかし、なかなか「買わない理由」の根っこまでたどり着くことは難しい

 

それは、人は買う理由は説明できるが、買わなかった理由はなかなか説明できないためだ。

理由がない=無意識の行動に意味を持たせたり、それを言語化するのは困難である。

 

喉が渇いてコンビニでコーヒーを買ったとする。

ブラックからカフェラテ、カフェモカ、微糖に朝専用など色々な商品が並んでいる。

今日はキリっとしたものを買いたいのでBOSSのブラックを買ったとする。

そのときに、ジョージアのブラックを何故買わなかったのか、ポッカのブラックを何故買わなかったのかと聞かれても、答えようがない。

 

なんとなく手に取ったし、なんとなく今日はBOSSの気分だった。

明確な理由は返せないし、定性調査などお金を貰って調査をしに行っている生活者からすると何かその場で考えたもっともらしい答えを出してみるが、真の理由なのか怪しい。

 

なんかサントリーって水が美味しいイメージじゃないですか。

昨晩飲み会だったので、今朝は若干胃がムカムカしていて、みずみずしい飲料を選びました。

そういえば、いつも飲み会の次の日に飲む珈琲はBOSSでした。

 

みたいな。

 

そして企業担当者は「なるほど!次のコンセプトは”飲んだらBOSS!”だ。

飲み会の次の日の胃のムカムカをBOSSでスッキリさっぱりキャンペーンだ」となる。

 

・・本当かそれ?

・・その場で作ってないか?

 

みたいな、謎の方向に突き進んでいく恐れも。。

 

また、わかったはいいが、その先の打ち手に繋がらないことも多々ある。

 

「買わない理由を聞かずに、買わない理由を明らかにする」ことが大事で、「価値→不満→だから、買わない」という手順を踏むことで、買わない理由が浮かび上がってくると説明されている。

 

幼児向け通信教育ブランドの例

関心ごとである育児における価値:
夫がアウトドアで子どもと楽しそうに遊んでくれているのを少し離れた場所から眺めて、あ~子どもを産んで良かったと実感する瞬間

ブランドに感じられている不満:
閉ざされた部屋で子どもとふたりきり、煮詰まった関係
チマチマした日々に、さらにチマチマした教材が送られてくるのは、まっぴらごめん

だから、買わない

打ち手:
ダイナミックな体験を与えて、子どものやる気を引き出す教材というバリュープロポジション、体験することを重視したコピー、アウトドアや自然の中で開放感を感じられる世界観、教材の内容も子どものさまざまな体験を促すものにシフト

 

若者のクルマ離れの例

ひきこもりに感じられている価値:
ひとの視線から解放され、自分の好きな世界に没入できる

クルマに感じられている不満:
クルマ=自己主張のかたまり
主張とかアピールは、平日だけで十分 休日まで、自己主張と関わりたくない

だから、買わない

打ち手:
主張を消し、環境や町の風景に溶け込むクルマというバリュープロポジション、環境や風景に溶け込む性能やデザイン、他人の目を意識することなく楽に乗れるクルマ作り

一回読んだだけではなかなか消化できない書籍なので、二回、三回と読み直して、吸収しないといけないな。

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Profile

 

千田 智治
Tomoharu Senda

 

広告会社 勤務
ストプラ・デジタル

 

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