横山隆治氏の新書「届くCM、届かないCM」を読んで。
届くCM、届かないCM 視聴率=GRPに頼るな、注目量=GAPをねらえ
翔泳社
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以前から業界人間ベムというブログで、今の広告会社のダメなところや、やるべきことを的確に伝えている横山氏だが、今回はテレビを科学する書籍を発刊。
テレビを脳波から効果をみたり、楽曲タイアップの効果、ぶら下がりの効果、効果のあるカットなど、かなりディープな領域まで実験している。
クリエーティブがこれまで職人芸的に行ってきたCM制作を、データを起点に効果を明らかにしていくので目新しい。
その中でも気になった部分をいくつか。
カナダのマイクロソフトのアテンション・スパンに関するリサーチが、この変化を捉えている。
2000年に12秒だったヒトの集中力は、2013年には8秒に縮まった。これは金魚の集中時間の9秒を下回る。
マルチスクリーン習慣やソーシャルメディア依存などの度合いが高い人ほど、一つのタスクへの集中力が短くなることが検証されている。
脳科学的な分析で見ると、ソーシャルメディア依存度の高い人ほど、非常に短い時間(3秒)において特異的に「高い集中」が見られることを明らかにした。
人が短気になっているという調査データはみたことがある。
LINEやFBなど、リアルタイムにメッセージを行うことが当たり前になった今、返答もリアルタイムでないと人はイライラする。
既読したのに返信がすぐにこないというのは、非常にストレスを与える行動だ。
ただ、金魚よりも集中力が短くなっているというデータも驚きだ。
スマホの普及で、毎日膨大な量のコンテンツを消費している。
いる、いらない、面白そう、面白くなさそう、という判断を、かなり研ぎ澄まされた反射速度で処理していく。
速読力はきっと、かなり進歩していることだろう。
ただ、このメディア接触の変化によって、これまでのテレビCMも変わるべきである、と示唆している。
テレビ視聴において、自分が積極的に見たいコンテンツでなければ、スマホネイティブは情報処理の時間間隔をテレビに合わせることはしてくれないだろう。
15秒のCMにしても、興味のない番組にしても、彼らからしたら冗長すぎて整理的に合わないフォーマットなのだろう。
たった15秒のCMですら、今の時代、長いのではないか、という提言だ。
いる、いらないを能動的に判断するメディアにおいては、短時間に集中して消費していくが、受動メディアのテレビでさえその対応が必要なのか。
最近、米国ペプシによりミレニアル世代に向けた5秒CMキャンペーンが放送されたのも話題になった。
若者に適したコンテンツを突き止めていくことで、5秒で伝えきる、という結論に達したようだ。
音楽に映画、テレビドラマと、Amazonやhuluを始め、コンテンツが細切れで消費されていく今、短く端的に伝えることが、人間の適したフォーマットになってしまったのだろうか。
仮にそうだったとしたら、これからの人の生き方自体が大きく変わっていくことになりかねない。
例えば、仕事において。
多くの情報を即座に判断し、やるべきこと、やらなくていいこと、を振り分ける能力には長けているのかもしれないが、その過程にある、何かに集中して考えたり、モノを作るということに大きなストレスを感じ続かないのではないか。
特に、クラウド化が進む今の時代、知りたいことはネットで探せばいいし、記録に残したいものはスマホで撮影すればいい。
頭の中に記憶しなくなるし、長く集中することもできなくなる。
メーカーからすると、これからの時代、明確な機能を端的に伝えることが大事になってくるのかもしれない。
長々と長尺で伝えたいメッセージは、生活者側から能動的に探すメディアやコンテンツで受ければよく、マスでは、他社とは差別化となる機能に絞って短く訴求していく。
長く伝えることができないので、機能別に複数本クリエーティブを作る必要があるだろう。
他社とは異なるUSPを、いかに生活者の頭の奥深くに短時間で打ち込めるか。
日本でも短尺CMを放送局が認め、ペプシのようにトライする企業が出てくると、これからのマスのゲームの仕方もかわってくるのかもしれない。