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広告ビジネス次の10年(横山隆治)

購入して半年ほど本棚で眠っていた書籍、やっと読み終わる。

広告ビジネス次の10年

広告ビジネス次の10年

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横山 隆治 榮枝 洋文
翔泳社
売り上げランキング: 20,013

広告会社に対して、デジタル・グローバルを強化せよと警告を鳴らす書籍の内容。

前段のデジタル化については、他の書籍やWEBサイトで言っていることとおおよそ同じという意味で、特段新鮮味のある内容ではなかったが、デジタル化を進めていく上で、今後必要なスキルについて奇麗にまとめられている。

マス/デジタル/リアルの統合管理ができる次世代型の広告代理店に求められる条件とは次の条件となるだろう。

  • オンラインアトリビューション
  • マス広告によるデジタル領域での消費者反応を把握し反応者をコミュニケーション対象としてデータ化する
  • マス広告とネット広告を同一効果指標で最適化する
  • オンライン・ツー・オフラインないし、オフライン・ツー・オンライン
  • 上記を通じて改めてマス広告から店頭を最適化する

今でも、マスは総合広告代理店、デジタルはネット広告代理店に分離して広告を実施する企業は少なくないが、デジタルで得られたデータや知見や発見をもとにマスとリアルを含むマーケティング全体を最適化する試みを行う企業も徐々に増えてきた。

日本国内でこういった統合型マーケティングの視点でコミュニケーションに取り組むのは、外資系企業が多いのではないか。

スマホの普及により屋外や店頭などのオフラインの行動データの取得や、POSと紐つけたシングルソースパネルの提供企業の増加、DMPなどデータの蓄積からターゲティングへと活用するテクノロジーの進化、そしてグローバル全体でオンラインとオフラインを跨いだ全体最適が注目されているからだろう。

また、書籍で紹介されていた超大手広告主ユニリーバの事例も興味深い。

2013年末に広告、マーケティング関係者にとってインパクトの大きなニュースが流れた。

ユニリーバがマーケティング部門の人員を800人削減し、同時に広告代理店へのコストや扱い品目を絞るという内容だ。

12月の投資家向け説明会では成長戦略ではなく「デジタルの活用を推進し既存コストをどんどん削減していく」ことを発表した。

「活動していないメディア費(ノンワーキングメディア)と称して、徹底的に広告代理店への支払いを削減する計画を発表。

グローバル予算全体で470億円を削減達成予定だ。

米国の大手広告代理店がすっぽり1社消える金額である。

プロダクションへの支払いコストも含めた広告代理店へ支払うコスト「ノンワーキングメディア」の削減が、ここまで大幅な金額でかつ、CEOの口から発表されるのは驚きだが、これら外資の動きは数年後国内クライアントに波及して同様の流れが押し寄せてくる可能性が高い。

データをクライアント内で保有、改善できる環境に有る中、広告会社そのものの存在意義が危うくなってくる。

そんなとき、広告会社が唱えるのは「更なる付加価値を」「更なる川上へ」「仲介業社ではなく、クライアントの真のパートナーへ」という言葉だ。

総合代理店には旧来型のマスの売上が大きく、データドリブンな専門部隊の設立やBI関連企業の買収、ツール開発などで強化しているが、まだまだ「代理店=コスト」として見られている状況なのだろう。

個々の広告マンに対して必要なスキルもまとめられている。

次世代広告マンに必要なスキルセットを考えてみたい。

  • プラットフォーム/アプリ開発
  • キャンペーンデザイン&実施
  • デジタル広告
  • リレーションシップ・マーケティング
  • Eコマース
  • システマティックデザイン
  • ブランド開発
  • モバイル
  • ソーシャル
  • リテール

広告会社のプランナーには仮説出しとその立証までをデータマネジメントプラットフォームを駆使して分析し、データをインテリジェンス化するスキルが求められる。

これまでは仮説の「言い切り型」だったが、今後はカスタマージャーニーデータからの「文脈発見型」のマーケティングが必要とのことだ。

今までのプランニングスキルを、数百・数千程の定量データから数ギガ・数テラの全数データへ拡大し、膨大なデータから真の課題や解決策を見つけるために仮説力や分析力を強化していかないといけない。

これらのスキルは、現在の仕事の延長線上にあるのだが、業務内で少しずつチャレンジしていかないと、クライアント側の方が分析環境やノウハウ、スキルが上回る恐れも出てくるだろう。

また、プランナーだけではなく、クリエーターに対しても、統合型人材が求められている。

筆者はよく従来型の広告代理店のクリエーターとネット広告代理店のクリエーターの違いを野球に例えて表現する。

従来型の広告代理店のクリエーターは、ホームランバッターでいつもバットをぶんぶん振り回すがホームランでも三振でも、どうしてそうなったのか検証しない。

一方、ネット広告代理店のクリエーターはバント職人だ。

バットの角度を1度ずつ調整してボールの転がり方の変化を見極めることで、出塁率がどう向上するのかしか考えない。

これからのクリエーターには双方のスキルが求められることは間違いない。

「アナリティクス」というのは職種として考えられているが、実はクリエーティブ人材に最も求められているスキルなのだ。

例えば「複数のユーザーセグメントに複数の時間軸を掛け合わせ、フェイスブック、ツイッターなどアーンドメディア上の反応に合わせたクリエーティブを作成しテレビのスポット広告との相乗効果を作る」ことが求められる。

クリエーターを野球に例えているのがわかりやすい。

私もダイレクト系の部署にいた経験があるが、ダイレクト系の作業には総合代理店のクリエーターはむかない。

クリック数が増える、電話が鳴るための細かなノウハウをクリエーティブへ反映していくパズル的な作業を伴い、かつそれらを高速で改善し続ける必要がある。

そうなると、低コストで、データに対して忠実に守ったアウトプットを出してくれる制作会社を望むようになる。

プランナーもクリエーターも(もちろん営業も)今のスキルを拡張し、広告会社が対応する領域を拡大しろ、というのは理解できる。

国内における次の10年間で起こる業界構造変化についても述べられている。

これからの10年で広告業界に起こる構造変化を予測してみよう。

  • 電通イージス・ネットワークの更なるグローバル化
  • 電博以外の総合広告代理店の衰退
  • デジタルエキスパートの台頭
  • IT、コンサルティング系企業の異業種参入
  • ネット広告代理店という業態からの脱皮
  • 黒船たちが再進出
  • 新たな仕組みのハウスエージェンシー

ページ後半のグローバル化については、とても詳しく情報収集されている。

海外の代理店や広告主の動きが整理されており、ここまで詳しく書ける書籍も多くはないのではないか。

電通イージス・ネットワークの動きすら自身があまり把握できていない現状もあるため、たとえ現在の業務内で海外の作業がなかったとしても海外の動きも意識しながら動く必要がある。

ページ後半は数回読み直して理解を深めたい。

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Profile

 

千田 智治
Tomoharu Senda

 

広告会社 勤務
ストプラ・デジタル

 

三児のパパ

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